Heinrich Sperling "Pugs & Cats" Print Palette
H. シュペルリンク「パグと猫」版画による装飾パレット
Early 20thC Germany
20世紀初頭 ドイツ
署名:H. Sperling(版上サイン)
32.2 x 21.1cm 木 紙 油彩顔料
ドイツ人画家ハインリヒ・シュペルリンク(1844-1924)はベルリンを中心に活躍し、動物特に犬と馬の油彩画を得意とした。画家が遊び心で油彩パレットの上に絵を描く「パレット画」を模して、シュペルリンクが限定制作した作品である。
木製のパレット表面は、高窓から飛び降りた猫がパグ犬親子のミルク皿をひっくり返す図と画家のサイン、さらに絵の無い箇所のパレットの木目まで全てが版画である。版画の上に本物の油絵の具を盛り上げた箇所や、窓に見立てたパレットの指穴から乗り出す猫の立体的な影が、トロンプ・ルイユ(騙し絵)の効果を生み出し、一種独特な作品に仕上がっている。生き生きした動物の表情や動きが非常に巧く画家の技量を感じさせる。
*SOLD*
Hand-Coloured Engraving "S. Maria Magdalena" by Jacobus de Man
Jacobus de Man手彩色銅版画「マグダラのマリア」
c1700 Flanders
1700年頃 フランドル
署名:Jacobus de Man(版上サイン) 木彫額
イメージサイズ:6.5 x 8.5cm 額:25.2 x 20.2cm
紙ではなく羊皮紙に刷った小さな版画のマグダラのマリアは、フランドルアントワープ(現ベルギー)の版画家 Jacobus de Man(1676-1719)による17世紀末の作品である。端正な手札サイズの手彩色銅版画は19世紀の木彫の額縁に納められている。
マグダラのマリアは改悛した娼婦であり、イエスに最も近い女性と考えられている。復活したイエスに最初に会ったのも彼女であり、フランスサント・ボームの山の洞窟で生涯を閉じるまで30年間隠棲したと云われる。「罪の女」が聖女となったことで芸術家のインスピレーションを刺激し、古くから彼女を主題とした作品が制作されている。一般に聖女と言えばベールを被る修道女姿で表される者が多い中、裸の胸を長い髪で覆い髑髏を傍らに瞑想する洞窟のマグダラのマリアは異質で独特の存在感がある。
*SOLD*
French Empire Oil on Canvas "Sleeping Child (Baby Moses?)"
フランス帝政油彩画「眠る子ども」
Early 19thC France
19世紀初頭 フランス
署名なし キャンバス裏面にMaison Belotのスタンプ
オリジナル金彩額
イメージサイズ:31.0 x 23.0cm 額:45.0 x 37.0cm
18世紀末から19世紀初めヨーロッパの芸術分野では理性、秩序、調和を重んじる古典主義や合理主義に対抗して、精神的な内面や、自然や神秘的なものを表現するロマン主義が台頭し、個人の感性や情緒を大切にするセンチメンタリズムがひとつの思潮となった。
そのような時代性を反映するフランス19世紀の油彩画。波の無い水面に浮かぶベビーかごで安らかに眠る子どもと傍で守護するように泳ぐ犬、静謐で象徴的な作品である。金髪の巻き毛、薔薇色の頬や唇を丁寧に描き込んだ子どもの寝顔に心癒される。ナイル川に浮かぶ赤子のモーセ(出エジプト記)を表しているのかもしれない。
キャンバス裏面に1805年から25年まで使用されたとされる画材店Maison Belotのスタンプあり。フランス革命後、ナポレオン帝政から復古王政期の上流階級の女性または子供部屋を飾ったであろう額絵がその後どのように年月を重ねたか想像すると一層味わい深い。
*SOLD*
Russian Icon “Beheading of St. John The Baptist”
ロシアイコン「洗礼者ヨハネの斬首」
Late 18thC Russia
18世紀後期 ロシア
39.5 x 29.5cm
神の子イエスに洗礼を施し預言者でもあった洗礼者聖ヨハネは、正教会においても前駆授洗者(Forerunner)の称で呼ばれる特別な聖人である。このイコンは、文字の読めない信者も聖ヨハネ殉教の経緯を理解しやすいように一枚の絵に時間の推移を表す異時同図法を用いている。 左上に牢に囚われたヨハネ、右上にヘロデ王の祝宴、中央に大きく主題であるヨハネの斬首場面が描かれ、首を落とされるヨハネ、くずおれた首なしの体と脚付きの盆に載った首、サロメ(ヘロディアの娘)に手渡される盆の首、と左から右へと物語が進行している。
木板にテンペラと金箔で描かれた作品は、古いロシアイコンに頻繁に見られる改善目的の描き足しや塗り重ねの無いオリジナルの状態である。人物の顔の素朴な表現と、人物の肌、衣装や調度品の独特な色彩が18世紀らしさを表す一方、背景の金と顔料の鮮やかな色遣いの斬新さに驚かされる。
*SOLD*
M. E. Moisand Watercolour "Hare Hunting"
M・E・モワサン水彩画「ウサギ狩り」
c1900 France
1900年頃 フランス
署名入り "M.Moisand."
紙に鉛筆、水彩
オリジナル木製額
イメージサイズ(マット含まず):8.0 x 15.3cm 額:19.0 x 25.5cm
獲物を見つけたのか逃げ切られたのか...狩猟犬のビーグルが走る野ウサギの後姿を見つめるドローイング水彩画。自然の中の狩猟犬と野生動物たちは作者Marcel Moisand(1874-1903)が得意とした主題のひとつである。夭逝の画家が残した作品は多くないが近年オークションに出品されたものなどをインターネット上で見ることができる。
この作品はMarcelではなく兄Maurice(1863-1934)の署名と判明。お詫びして訂正します
オリジナル額(リペイント)の裏に残るラベルは、19世紀後期パリの街角写真で名を馳せた写真家で編集者のEdouard Hautecoeur (1847-1903)が1878年パリオペラ通りに開いたメゾンにおいてこの絵が額装されたことを示す。画家Moisandと写真家Hautecoeurの当時の交流を想像するのも一興である。鉛筆の軽いタッチに水彩を薄塗りした作品は額装も含めスモーキーなトーンで場所を選ばず飾ることができ、小品とはいえドラマティックな存在感がある。
*SOLD*
Mathieu-Deroche (active 1866-1904) Photographic Enamel Portrait "Coussein 1883"
マチュー=ドゥロシュ "Coussein 1883年" エナメル肖像写真
Signed /Dated "Medaille d'or Paris 1878 Miniature Mathieu Deroche Coussein Phr... 1883 MD 32594" France
1883年 フランス 署名入り
銅板にエナメル オリジナル金属額
イメージサイズ:5.8 x 4.5cm 額: 9.8 x 8.5cm
19世紀にはまだ開発されていないカラーフィルムで撮影した写真のような幼子の肖像は、銅板に筆で細かく着彩したエナメル顔料を焼き付けたエナメル画である。白いコットンにブルー・リボンのベビードレスは、顔料を盛り上げレースの質感を表している。
遠目は写真に、ルーペで拡大すると手描きの細密画に見える不思議な肖像画は、19世紀のフランス人写真家Mathieu-Derocheの作品である。写真を基にエナメル絵付けを施す独自の技法でライセンスを取得した彼は、万国博覧会において幾度も賞を獲得している。ビジネス上のペンネームであるMathieu-Derocheは1866年から1904年頃までパリとミラノで活動を続けた(1908年まで甥がパリの工房を引き継いだ)。
Mathieu-Derocheは一般的な肖像写真も残しているが、エナメル画の肖像作品の人気は高く、ヨーロッパの国立ポートレート・ギャラリーなどにも所蔵されている。
*SOLD*
Religious Anamorphosis Picture "Trisceneorama (3-Way Picture)"
「トリシネオラマ」アナモルフォーシス宗教画
c1863 France
1863年頃 フランス
Paris Marotte社(リトグラフ)など 39.7 x 33.2cm
見る角度によって3つの画像が別々に浮かび上がる「トリシネオラマ」と呼ぶ手法で作られた宗教画である。リトグラフの図像は、正面からは洗礼者ヨハネ、右からは聖母マリア、左からはイエス・キリストで、ガラスを嵌めた簡素な箱状の額に収められている。
はしご絵(Ladder Picture)とも呼ばれるだまし絵の一種「トリシネオラマ」。宗教的主題の19世紀作品はもの珍しい観光土産として販売された。格子の向こうから微笑む神の子羊を抱いた聖ヨハネのイメージは、一般的な額入りのリトグラフとは違い観るものに奇妙で異質な感覚を与える。裏面の書き付けから1863年の贈り物であったことが分かる。
*SOLD*
French School Miniature Paintings "Virgin and Child"
フランスミニアチュール(細密画)「聖母子」
Late 19thC France
19世紀後期 フランス
署名なし 牙板に顔料
オリジナルヴェルヴェット額/革製ケース
イメージサイズ:6.0 x 4.6cm 額:10.2 x 9.0cm
赤いシルクヴェルヴェットの額に入った細密画の聖母子像は、個人の祭具として利用されたもので旅行などへの持ち運びができるようオリジナルの革製ケースに仕込まれている。
肌の陰影などを顔料で丹念に描き込んでいるにもかかわらず透明感があり蒼白く美しい聖母子の顔。細かな点描で表された聖母のヴェールの縁取りと衣装や背景の簡単な筆致の対比によって、聖母子の表情の印象を鮮明に残す作品となっている。
支持体の牙板をガラスと金属製の枠で固定している箇所の留め直しを当店にて行った際、おもて面より明るい色の顔料による裏彩色を確認している。革ケースに傷みあり。
*SOLD*
Jean François Gerard Fontallard (1777-1858) Watercolour "A Girl Holding a Rabbit in Her Arms"
G. フォンタラール水彩画「ウサギを抱く少女」
Signed /Dated "Fontallard 1836" France
署名入り "Fontallard 1836" フランス
厚紙板に水彩 額装なし
24.5 x 19.0cm
作者のGerard Fontallardは軍隊での出世を約束されていたが、絵を描く情熱を捨てきれず画家となる。1789年のサロンに初出品し、1812年には息子アンリの肖像で最高賞を獲得する。彼は肖像画家としてミニアチュール(細密画)や水彩による肖像画を1835年までサロンに出品していた。
この水彩画は彼の1836年の作である。西洋では性の暗喩でもあるウサギをさりげなく露出した胸に抱く少女の姿は、実在人物の肖像画ではなく(モデルはいたかもしれないが)、無垢と官能を併せ持つ普遍的な少女性を追求した作品である。作品の裏側には当時のパリ、モンマルトルの額装店のラベルが残っているが、後年額を外されたため、水滴のシミが画面に多数見受けられる。しかし少女の瞳や髪の細密表現は、作品の保存状態を差し引いても十分に肖像画家の才能を堪能できる仕上がりとなっている。
*SOLD*
French Canivet Embroidered Card
フランスカニヴェ刺繍カード
Mid 19thC France
19世紀中期 フランス
11.0 x 7.2cm
18世紀末から19世紀初めヨーロッパの芸術分野では理性、秩序、調和を重んじる古典主義や合理主義に対抗して、精神的な内面や、自然や神秘的なものを表現するロマン主義が台頭し、個人の感性や情緒を大切にするセンチメンタリズムがひとつの思潮となった。
時代性を反映したフランスのメッセージカードは、エンボス加工を施したカニヴェ(レース状の切り抜き)のカードに刺繍を施したものである。シルク糸をひと針ずつ刺して仕上げた裏まで美しい両面刺繍は、結んだリボンから解き放たれるパンジーの花で、花の中心が死を表す髑髏の顔となっている。菫色のインクで記した"La pensée de la mort est douce à qui la vie est amère(生を苦く感ずる者に死を想うことは甘美である)"のメッセージは、死へ憧れる若き女性が誰かまたは自身に向けて綴ったと思われる(パンジーを表すフランス語pensée(パンセ)は「物思い、思想」の意もある)。一般的なホーリーカードやグリーティングカードとは全く異なる、非常に私的で珍しいカードである。レース部分に一部ちぎれあり。両面アクリルフレーム(現代物)が付属する。
*SOLD*
French Porcelain Plaque "Mother Cat and 3 Kittens"
フランス陶板画「母猫と三匹の子猫」
Mid 19thC France
19世紀中期 フランス
オリジナル木製額
イメージサイズ:11.5 x 13.7cm 額:19.4 x 21.8cm
19世紀中頃のオリジナル木製額縁におさめられた、猫の親子を描いた小さめの陶板画である。
絵付けと焼成を繰り返してひとつの絵を完成させる陶板画は、当時贅沢な室内装飾品であり、オールドマスターによる宗教画などの名画を写した重厚感のある作品が一般的であった。狩猟を主題とした動物の陶板画は見られるものの、この作品のように小動物だけを描いたものは大変珍しい。猫の陶板画は非常に稀少で、裕福な猫好きの者の特別注文によって制作されたと考えられる。
周囲を警戒する三毛の母猫の毛並みは一本ずつ描いた筆致が感じられる。母に護られ戯れる三匹の子猫のくつろいだ姿は見る者を和ませる。窯印や署名は無いが、作品全体の配色や絵付けの雰囲気がいかにもフランスらしい。
*SOLD*
Pair of Scatological Engravings “Le Perfumeur”“Les Deux Fontaines”
スカトロジー銅版画一対「調香師」「二つの泉」
Middle 18hC Paris France
18世紀中期 パリ フランス
マット下にDuflos 木製額
イメージサイズ:(各)18.4 x 12.3cm 額:26.5 x 33.0cm
「世界の宗教儀式とその衣装 "Cérémonies et Coutumes Religieuses de tous les peuples du monde”(1723-1743)」の挿画で著名な版画家ベルナール・ピカール(Bernard Picart 1673-1733)が男女の排泄行為を描いた(スカトロジー)銅版画の小品「調香師」と「二つの泉」は、当時から一部好事家の間で珍品として有名であった。
人気のピカール作品を模したとおぼしき同題の銅版画一対は、版上の銘からパリとリヨンで活躍した版画家の家系デュフロ家のひとりピエール(Pierre Duflos le Jeune 1742-1816)の作品と推察される。城館内でさえ用を足すための部屋「トイレ」が存在しなかったルイ王朝時代、屋外排泄は日常行為であった。それを敢えて絵に描きとめ洒落た題名をつけるセンスは、まさにフランス的精神の表れであり、大変珍しい18世紀版画作品である。全体にヤケ、マットにシミあり。
*SOLD*
Pair of French Mourning Hairwork Miniatures from Grouvelle Family
Grouvelle家モーニング毛髪細工ミニアチュール(細密画)一対
1819 France
1819年 フランス
12.5 x 12.0cm オリジナル黒塗木製額
故人の毛髪を形見として今は亡き大切な人が生きていた証とする慣習は多くの文化圏で見られる。18世紀の北欧を起源として細く柔らかい髪質の人種が多いヨーロッパでは、毛髪細工(ヘアワーク)と呼んで、毛髪そのものを素材として細工する工芸の領域に高めた。19世紀の欧米では故人を偲ぶために、遺髪をモーニング(追悼)ジュエリーに仕立てて身に着けたり、黒い額縁に入れ部屋に飾ることが流行した。
牙板にセピア顔料と遺髪を使って描いたミニアチュール(細密画)一対は、フランスのGrouvelleという家族が作らせたものである。しだれ柳の下、ふたつのパンジーに挟まれた墓の絵は、額の書き付けから持ち主の祖母を追悼する作品と分かる。二羽の鳩とふたつのハート、パンジー、蝶、木に囲まれた霊廟の絵は四名の家族を追悼する作品で、額の裏に故人についての丁寧な書き付けがある。一般的な額入り毛髪細工と比べ格別細かく作り込んだこの二点は、一族が革命後も裕福であったことを物語ると同時に、質の高い工芸品と見なされたからこそ200年間大切にされてきたと考えられる。
*SOLD*
Spanish Small Double-sided Religious Paintings on Copper
スペイン小型銅板両面油彩宗教画
Late 17thC Spain
17世紀後期 スペイン
署名なし 11.4 x 9.9cm
金属のプレス加工の技術発達にともない、銅板は油彩画の支持体として17世紀頃から頻繁に使用されるようになる。銅板は、木板やキャンバスの支持体に比べ薄くて軽いため持ち運びが容易で、特に宗教画は海を渡る宣教師に好まれ布教活動に活用された。
掌サイズの小さな銅板両面に描いた細密油彩画は、多数の顔料の剥落箇所があるとはいえ落ち着いた色彩と聖人らの品格ある顔が好ましい作品である。赤いビーズのロザリオで取り囲まれた、天使を両側に従え頭に王冠を戴く天上の聖母と幼子を二人の聖人が見上げる「ロザリオの聖母」、墓の中で蘇り天使によって赤いローブ(剥奪された聖衣?)を掛けられるイエスを二人の聖女が見上げる「イエスの復活」である。バロック特有の劇的な表現でありながら、静謐な印象を与える。額装せずに飾ったと思われる穴が画面上部に開けられている。
*SOLD*
Portrait Miniature of Infant with a Black Toque
黒いトーク帽の幼子の肖像ミニアチュール(細密画)
c1810 France
1810年頃 フランス
署名なし 牙板に水彩 オリジナル打ち出し真鍮額
イメージサイズ:8.2 x 6.4cm
たっぷりとギャザーを寄せた白いモスリンドレスに黒いトーク帽の幼女。黒いトーク帽はおそらくヴェルヴェット。1810年刊行のファッション誌 "Modes de Paris. Costumes d'Enfans(パリのモード 子供服)"掲載図版とほぼ同じ服装である。
画家を雇い流行の子供服に身を包んだ我が子の肖像画を残せる裕福な貴族の家に生まれ、気に入りの銀のガラガラを手に真面目にモデルを務める彼女が、どのような生涯を送ったのか想いを巡らさずにいられない細密画である。
グアッシュ(不透明な水彩顔料)によるベタ塗りのチャコールグレイの背景と平面的な人物像は、ナポレオン帝政期らしい静止的な古典主義の雰囲気を感じさせる。
*SOLD*
Miniature Paintings "Bacchus and Ariadne" after Guido Reni
グイド・レーニ原画によるミニアチュール(細密画)「バッカスとアリアドネ」
Late 19thC France
19世紀後期 フランス
署名なし 牙板に顔料 オリジナル金彩額
イメージサイズ:11.4 x 9.1cm 額:13.9 x 11.6cm
イタリア ボローニャ派の画家グイド・レーニ(1575-1642)による「バッカスとアリアドネ」(1620年)を、古典主義が復活した19世紀に細密画として牙板に写した作品である。
酒神バッカスとナクソス島に置き去りにされた豊穣神アリアドネ邂逅の場面である。ふたりの裸体の描き込みによる繊細な質感は、牙板に描かれた細密画特有のものである。
*SOLD*
19thC French Papercut "Les Chasseurs"
19世紀フランス切り絵「猟師たち」
c1828 France
1828年頃 フランス
裏面に"Exécuté en 1828"の書付け オリジナル金彩額
イメージサイズ:14.8 x 11.7cm 額:17.3 x 14.2cm
黒い下地紙の上に繊細に編んだレースの如く切り出した白い切り絵細工。ウサギを仕留めたふたりの猟師が森を歩く図は、細かい文字で"LES CHASSEURS(猟師たち)"と題名が入っている。葉脈標本と見まごう森の木々や植物の細工の精緻さは気が遠くなるほどである。
中世から伝わる聖画を装飾する切り絵細工のカニヴェ(Canivet)や、ルイ15世時代王侯貴族の間で流行した切り絵による肖像画のシルエット(Silhouette)といった伝統工芸を生んだフランスにふさわしい、19世紀のフォークアート作品である。念入りに細かく仕上げた切り絵からは、電気照明がまだ無い時代の素朴な作り手のひたむきな情熱が伝わってくる。
*SOLD*
Illuminated Manuscript on a Vellum Leaf from a "Book of Hours"
中世羊皮紙彩飾写本「時祷書」一葉
Late 15thC Probably Flanders
15世紀後期 おそらくフランドル
羊皮紙(ヴェラム)にセピア色インク 多色顔料 金箔
金彩木彫額(17世紀)
イメージサイズ:14.5 x 10.8cm 額:19.4 x 16.0cm
テキストはゴシック体で手書きされたラテン語で、「時祷書」というキリスト教徒が個人で用いる聖務日課書(聖母への祈りを中心とする祈祷書)からのRecto(奇数ページ:表)とVerso(偶数ページ:裏)両面書き写しの一葉である。
エジプト人で修道僧の始祖である聖アントニウス(251?-356)の挿画と、黄色の地に鳥と蟲と植物文様のボーダー(縁飾り)で装飾された美しい頁である。挿絵の聖アントニウスは、髭のある老人として表現され、緑青顔料で描かれた森を背景に、書物と杖を手にして豚を率いている。オリジナルの羊皮紙に別の羊皮紙で補強が加えられている。フランス17世紀(ルイ13世時代)の額縁におさめられている。
*SOLD*
Russian Icon “The Liberation of St. Peter by Angel”
ロシアイコン「天使に解放される聖使徒ペトロ」
1829 Russia
1829年 ロシア 17.5 x 14.0cm
帝政ロシアの首都サンクトペテルブルクは、ロマノフ朝5代目のピョートルⅠ世が18世紀初めに完成させた都市である。サンクト(聖)、ペテル(使徒ペトロ=スラブ系男性名ピョートル)、ブルク(城)の名前のとおり、新約聖書の使徒ペトロは正教会において、使徒パウロと共に十二使徒の中でも首座使徒として記憶される重要な聖人で、ピョートル大帝の守護聖人であった。
この作品は聖ペテロが天使によって監獄から解放される図である。聖母子像や単独で聖人像を描いたイコンと比べ、珍しい主題である。小さな木板に細密にテンペラで描いた人物の顔や文字は繊細で美しい。作品左下に制作年代等を示す文言が記されている。
*SOLD*
French Porcelain Plaque "Young Faun" after Titian
ティツィアーノ原画(?)による陶板画「若い牧神」
Signed /Dated "1846 A. Pelleur" France
署名入り "1846 A. Pelleur"(おもて面)"d'après titien"(裏面) フランス
オリジナル金彩額
イメージサイズ:16.8 x 13.0cm 額:32.5 x 29.0cm
19世紀中頃のオリジナル金彩額縁におさめられた、生き生きした裸のこどもを描いた艶やかな陶板画である。ヨーロッパの陶板画に頻繁に登場する可愛いらしいクピドや天使の主題と思って眺めると、二本角の隆起した額と尖った耳の異形のこども姿の牧神が振り向いて舌を出している画題に驚かされる。
牧神の滑らかな肌、薔薇色の頬、目のハイライトは、絵付けと焼成を繰り返すことによって得られる品質の高い陶板画特有の光彩を放っている。陶板裏面に記された "d'après titien"は、ティツィアーノにちなんだ作品を意味するが、原画の模写かティツィアーノ風の創作かは不明。
*SOLD*
Illuminated Manuscript on a Vellum Leaf from a "Book of Hours"
中世羊皮紙彩飾写本「時祷書」一葉
Late 15thC France
15世紀後期 フランス
羊皮紙(ヴェラム)にセピア色のインク、多色顔料、金泥
16.3 x 10.2cm
テキストはゴシック体で手書きされたラテン語で、「時祷書」というキリスト教徒が個人で用いる聖務日課書(聖母への祈りを中心とする祈祷書)からのRecto(奇数ページ:表)とVerso(偶数ページ:裏)両面書き写しの一葉である。
鉛丹(?)の赤を基調に金泥を贅沢に使って描き込んだ、唐草文様のボーダー(縁飾り)に取り囲まれた美しいページ両面に、殉教死を遂げた聖女の挿画が描かれた至高の一葉となる。
Rectoに描かれた聖マルガリタ(アンティオキアのマルガリタ)は、ドラゴンの姿をした悪魔に飲み込まれるも、手にした十字架によって無事に外に出られたと伝えられる。一方Versoの麦の穂を携え読書する聖バルバラは、三位一体を示す三つの窓の塔と共に描かれている。ともに中世に熱狂的に信仰された聖女であり、彼女らが含まれる十四救難聖人は、信者がその名を呼ぶことで難から救われるとされ、15世紀中頃から盛んに崇拝されるようになる。この作品は時祷書中の聖人連祷からの一葉と思われる。両面アクリルフレーム(現代物)が付属する。
*SOLD*
"St. Walburga and Her Saints Family" Boulle Marquetry Small Triptych
「聖ワルプルガと聖人家族」ブール象嵌小三連祭壇画(トリプティック)
Early 18thC France or Germany
18世紀初期 フランスまたはドイツ
署名なし 羊皮紙 木 真鍮 ピューター ガラス
祭壇:高さ19.7cm 中央イメージサイズ:8.0 x 6.0cm
古代ケルト発祥の、中欧や北欧で行われる春の祭り(5月1日)の前夜祭は、「ワルプルギスの夜」と呼ばれ、魔女たちが大サバトを開く夜と伝えられる。キリスト教以前の異教の祭りを8世紀の聖女ワルプルガにちなみ名付けられたが、彼女と魔女との関連は無い。
羊皮紙に細密に描かれた作品中央の、ベネディクト会女子大修道院長であった聖ワルプルガが手にする薬壜は、彼女の遺骨から現在も湧く、癒しを与える奇蹟の油を表している。彼女は英国ウェセックスの貴族の生まれで、家族もキリスト教の聖人として列聖されており、祭壇左翼に聖リヒャルト(父)と聖ウィリバルト(兄、アイヒシュテット司教)、右翼に聖ウナ(母)、聖ウィニバルト(兄、修道院長)が描かれている。
フランス・バロックを代表する家具職人André-Charles Boulle(アンドレ-シャルル・ブール)考案のブール象嵌技法によって真鍮とピューターで装飾を施した木製祭壇は、小さく持ち運びが容易で、個人の祭具として利用されたものと考えられる。象嵌された金属部分および取手に傷みあり。
*SOLD*
Stipple Engravings after John Russell "The Cake in Danger" and "The Age of Bliss" in Verre Églomisé Frames
ジョン・ラッセル原画による点刻銅版画(エグロミゼガラス額装)
"The Cake in Danger" : Engraved by William Nutter 1788
"The Age of Bliss" : Engraved by Edmond Scott 1790
Published by John Jeffryes London England
(右)1788年 (左)1790年 John Jeffryes 発行 ロンドン イギリス
紙 ガラス オリジナル金彩額
額:37.7 x 31.0cm
肖像画で有名なイギリス人画家ジョン・ラッセル(1745-1806)の描いたパステル画を元にした銅版画 "The Cake In Danger"と "The Age of Bliss"である。原画のパステルのタッチを生かすために、線ではなく点で彫る点刻彫版(スティップル・エングレーヴィング)の技法を用いて多色刷りで仕上げている。
版画を引き立てる額装はマットの代わりに、ガラス裏面から金箔を張り黒色で仕上げたガラス絵 verre églomisé エグロミゼ技法が使われている。これは古い宗教装飾に使用された技法であったが、18世紀にフランスの室内装飾の分野で見直され、19世紀にかけて人気を博した。
この2点は、挿画入りの古書の一頁を後年額装したものではなく、室内装飾用にオリジナル制作した版画作品である。金彩額の裏にはイギリス ブリストルの額装店のラベルが残る。
*SOLD*
French Caricature Hand-Coloured Engraving "Qui Se Ressemble S'Assemble"
フランス手彩色銅版画カリカチュア「類は友を呼ぶ」
c1810 Paris France
1810年頃 パリ フランス
黒塗木製額
イメージサイズ:25.0 x 14.8cm 額:30.0 x 20.0cm
19世紀前半、革命後のフランスの政治体制は、ナポレオン帝政、王政復古、共和制とめまぐるしく変化した。その中で市民社会においては、位の高い者に対する批判や揶揄を込めたカリカチュア(風刺画)が、出版印刷の発展とともに流行した。
"Qui se ressemble s'assemble(類は友を呼ぶ)" と題された手彩色銅版画は、プロムナード(散歩道)上の貴婦人を取り巻くように寄り集まった小動物たち、勝手気ままに飛び廻る蝶、悪知恵の働く猿、爪を隠しておねだりする猫、四六時中お喋りに興じる九官鳥、他人の言葉を真似るだけのインコ...によって気取った貴婦人の性質を風刺している。後年(1900年頃)の額装は、黒塗本額と金彩入れ子ともに木製。ヤケ、経年によるシミあり。
*SOLD*
Portrait Miniature of a Girl Holding a Doll "Polly 1873"
人形を抱いた少女 “Polly 1873年” 肖像ミニアチュール(細密画)
1873 England or Germany
1873年 イギリスまたはドイツ
判読困難な署名(画面)と"Polly 1873"のグラヴュール(額裏面)
牙板に水彩 オリジナル真鍮額
イメージサイズ:8.2 x 6.6cm
レースで飾られた白いオフショルダーのコットンドレスの少女。ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」(1865年)の挿絵の影響により、ヴィクトリア時代の子供服において大流行したエプロンを着用し、サッシュと合わせたピンクのリボンでブルネットの髪を留めている。少女の愛称はポリー、1873年の肖像画である。
画家を雇い娘の肖像画を描かせることのできる裕福な貴族の邸にふさわしい薔薇のある庭園を背景に、お気に入りの人形を抱いてモデルを務める少女は何を思い、どのような生涯を送ったのか想いを巡らさずにいられない細密画である。額縁で覆われた部分に画家の署名有り。
*SOLD*
Miniature Paintings "St. Mary Magdalene in Ecstasy"
ミニアチュール(細密画)「マグダラのマリア脱魂図」
Signed /Dated "Gaylica(?) 1852" France
署名入り "Gaylica(?) 1852" フランス
牙板に水彩 ベルベットと金彩額装(オリジナル)
イメージサイズ:直径 11.3cm
マグダラのマリアは改悛した娼婦であり、イエスに最も近い女性と考えられている。復活したイエスに最初に会ったのも彼女であり、フランスサント・ボームの山の洞窟で生涯を閉じるまで30年間隠棲したと云われる。「罪の女」が聖女となったことで芸術家のインスピレーションを刺激し、古くから彼女を主題とした作品が制作されている。一般に聖女と言えばベールを被る修道女姿で表される者が多い中、裸の胸を長い髪で覆い髑髏を傍らに陶酔する洞窟のマグダラのマリア「脱魂図」は大変異質で独特の存在感がある。
円形の牙板に緻密に手描きされたこの作品におけるマリアの恍惚の表情は、目蓋の下に覗く眼と薄く開けた歯まで描き込まれた口元をルーペで確認してはじめて真の素晴らしさが分かる。作品を所有した者のみが愉しめる非常に個人的な細密画であり、注文により制作されたと考えられる。
*SOLD*
Chinese Export Gouache Paintings on Pith Paper Punishment by Cangue
清朝輸出向けグアッシュ画「首板の刑」
Late 19thC (Qing Dynasty)
19世紀後期 清朝後期 中国
署名なし 通草紙にグアッシュ 黒塗木製額
イメージサイズ:11.0 x 15.0cm 額:24.0 x 29.0cm
中国に生息する植物 カミヤツデ(別名 通草)の髄から生成される繊細な紙である通草紙に、グアッシュ(不透明な水彩顔料)を用いて手描きされている。 清朝後期、広東から欧米輸出向けの絵の題材の一つに中国人の風俗画がある。なかには罪人を処刑する経緯を一揃えにした拷問図などもあり、この作品もそのような画帳からの一葉と思われる。
姦通の罪によるのであろう僧侶と纏足の女が首板をつけさらしものになっている。マット全体にシミ、やけ。絵本体にうねり、女の頭部に傷み。
*SOLD*
Miniature Watercolour on Card "Putto with Curly Blonde Hair"
ミニアチュール(細密画)「巻き毛のこども」
Late 19thC England
19世紀後期 イギリス
署名なし 厚紙に水彩 金彩木製額
イメージサイズ:8.6 x 6.7cm 額:22.2 x 20.5cm
暗い背景から浮き上がる白い肌とブロンドの巻き毛にハイライトをもつ裸のこどもを小さな楕円の厚紙に描いた細密画である。巻き毛の一本一本、頬や耳、肘の赤み、陰影を水彩顔料でぼかすこと無く一筆ずつ緻密に描いている。現代ここまで表現する細密画家も稀少であろうが、絵筆自体が存在するのかという細かさである。
絵の主題はバロック的であるが、過去の名画の模写かオリジナル作品であるのかは不明。19世紀中後期の作品と思われる。額縁は同時代のものを使用し、後年額装されたものである。
*SOLD*
Franz Hogenberg "Hanging of Anne du Bourg Place de Greve 23rd December 1559"
Franz Hogenberg 銅版画「1559年 アンヌデュブールの処刑」
Late 16thC Germany
16世紀後期 ドイツ
イメージサイズ:21.8 x 29.9cm 額:26.5 x 34.5cm
Franz Hogenberg(1535-1590)による、ユグノー教徒弾圧を抗議した高等法院評定官アンヌデュブールが1559年グレーヴ広場にて処刑される場面を描いた銅版画である。これに先駆け1570年に発表された、フランスの宗教戦争を綴ったTortorel et Perrisinの木版作品を倣ったもので、これと比較してサイズは縮小し、イメージは左右反転している。
額装は1900年前後のものと思われ、裏面に当時のイギリスの商店 Miller & Co LONDON BIRMINGHAMのラベルが貼られている。
*SOLD*
Illuminated Manuscript on a Vellum Leaf from a "Book of Hours"
中世羊皮紙彩飾写本「時祷書」一葉
Late 15thC Northern France
15世紀後期 北フランス
羊皮紙(ヴェラム)にセピアインク 赤青顔料 金箔
16.4 x 12.0cm
テキストはゴシック体で手書きされたラテン語で13行から成る。盛上げて磨かれた金の飾り文字は剥げも無く美しい。当時紙の10倍の値で取引されたという羊皮紙の一箇所(テキストの外側余白部分)に惜しくもなめしの際に生じた最大4mmの穴がある。
「時祷書」というキリスト教徒が個人で用いる聖務日課書(聖母への祈りを中心とする祈祷書)からのRecto(奇数ページ:表)とVerso(偶数ページ:裏)両面書き写しの一葉である。イギリスの職人による額装するためのマット付き(両面分)。
*SOLD*
Russian Icon in Gilt Metal Riza "Sergius of Radonezhof, Kirill & Mary in a Coffin"
リザ入りロシアイコン「ラドネジの聖セルゲイと柩のキリルとマリア」
Late 19thC Russia
19世紀後期 ロシア
ラドネジの聖セルギイ(1320頃-1392)は正教会の聖人で、至聖三者聖セルギイ大修道院を創設した、中世ロシアにおける重要な宗教指導者で、ロシア正教会では最も偉大な聖人のひとりとして崇敬されている。
この作品はセルギイが、晩年に修道生活を送った父キリルと母マリアが揃って横たわる柩の傍らで、イエスに彼らの鎮魂を祈る図である。聖母子像や単独で聖人像を描いたイコンと比べ珍しい主題である。小さな木板に細密にテンペラで描いた人物の顔や金彩による光背や文字は繊細で美しい。
オリジナルの金属製の覆い、リザ(オクラドともいう)が付属し、立体的な頭光、セルギイの聖衣や手に持つポマンダー、両親を覆う布の柄等、細かく打ち出し鋳造されている。
*SOLD*