Annexe 7【分室7】〜飾り小箱

Enamel Work エナメル(七宝焼き)細工

 

Enamel "Cupid Playing with Dandelion" Silver Round Box
エナメル「タンポポと戯れるクピド」銀製円形ボックス 

c1880 Limoge France
1880年頃 リモージュ フランス
刻印:猪の頭(純度800)、BM(工房印)
直径:6.5cm 高さ:3.1cm 銀 エナメル
 
銀表面を旋盤で刻むことで生み出される模様(ギョーシェ)が透けて見えるよう透明感のある赤エナメルを上から施したギョーシェエナメルの上に、金彩と白エナメルを盛り上げて模様を描き、中央に淡い色のエナメルでタンポポと戯れるクピドを描き込んだ円形飾り箱である。箱内部にも施された赤エナメルは、装飾だけでなく、中に入れるボンボンや化粧品が、銀の酸化で劣化するのを防ぐためでもある。銀製の箱本体はパリのMitton工房によるが、エナメル装飾はエナメルの盛んなリモージュで制作されたと思われる。
 
古いヨーロッパの恋占いでは、タンポポの綿毛を一息で吹き飛ばせたら恋が実ると伝えられる。タンポポの綿毛を見つめる愛のクピドのうっとりとした表情は、この小箱を贈られた女性と贈り主との恋の成就を願っているかのようである。ジュエリーを含めた数多くのエナメル細工品のなかでこの箱は、旋盤細工に加え様々なエナメル技法を駆使した秀逸の作品である。
 

 

Limoge Enamel "Watteau" Lovers Bonbonnière
リモージュ エナメル「ワトー」恋人文ボンボニエール

c1880 France
1880年頃 フランス
刻印:猪の頭(純度800) 直径:4.5cm 高さ:3.1cm
鍍金された銀 銅 エナメル
 
野外劇鑑賞の幕間であろうか、摘んだ薔薇を手にした貴婦人に貴公子が話しかけているロマンティックな場面、箱底には湖水の見える離宮が描かれている。箱内部に描かれた仮面と道化師の杖、楽譜、リラ(竪琴)は、装飾だけでなく、中に入れるボンボンや化粧品が、銀の酸化で劣化するのを防ぐためでもある。
 
市民革命によってロココや新古典主義といった正統的様式が一時中断していた19世紀後半のフランスでは、生活空間である装飾美術の分野で、ロココ様式を盛んに取り入れるようになる。18世紀のロココ趣味に強い憧れを抱く貴族や新興ブルジョワのために、多くのリバイバル作品が作られた。画家アントワーヌ・ワトー(1684-1721)が描いた絵画作品に見られる宮廷の恋人たちの主題は「ワトー」風と呼ばれ大変人気があった。
 

 

Viennese Enamel Dog Bonbonnière by Hermann Ratzersdorfer
Hermann Ratzersdorfer ヴィエナ エナメル犬型ボンボニエール

c1870 Vienna Austria
1870年頃  ウィーン オーストリア
刻印 : ウィーン銀刻印(純度800)、工房印
長さ:6.3cm 鍍金された銀 銅 エナメル
 
宮廷文化が栄えた18世紀以降、現在に至るまでヨーロッパでは洒落た高級小箱は贈り物や蒐集品として人気が高い。ボンボニエールはボンボン(砂糖菓子)を入れる蓋付き容器で日本でも明治以降皇室の引き出物とされている。Hermann Ratzersdorfer (1843~90年代まで活動)は、金銀細工、エナメル細工、水晶彫刻で19世紀のウィーンを代表する作家工房である。この作品は、高温で焼成するフランスやスイスのエナメル細工に比べやや脆いウィーンのエナメル細工であるが、損傷も無く良い状態である。裏蓋の両面に細かく花の小枝が描かれている。
 

 

Rococo Style Enamel Egg Bonbonnière
ロココ様式エナメル卵型ボンボニエール

c1880 Paris France
1880年頃 パリ フランス 
刻印なし 長さ:4.6cm 銅 金色合金 エナメル
 
18世紀ジョージ王朝の栄華を背景に、高級エナメル小箱が贈り物として流行した英国では、ロココ絶頂期のフランスから優れたエナメル職人がビルストンに移住し英国エナメルの中心地となるが、まもなくナポレオン戦争や職人の流出によりエナメル産業は衰退する(現在イギリスのエナメル専門店ハルシオン・デイズが復刻を果たしている)。
 
この作品は、19世紀後期パリのサムソン工房によるビルストン写しと思われる。ターコイズブルーの地色に白エナメルの盛上げ装飾、小さな4つのパネルには田園風景が手描きされている。白エナメルの一箇所に剥落が見られるが、18世紀および18世紀様式のエナメル細工は軟質で脆いため、修復の無い作品は稀少である。18世紀ロココ作品の写しを得意としたサムソン工房は、オリジナル作品との混同を避けるために窯印を入れたが、蒐集家や骨董商によって後に印を消されたものもある。この作品には印が無く、18世紀ビルストン作品の可能性も否定できないが当店では19世紀作品との見解とする。
 

過去の作品

Meyle & Mayer Guilloché Enamel and Marcasite Gilt-Silver Cigarette Case
マイレ&マイヤー ギョーシェエナメル/マーカサイト銀製シガレットケース

c1915 Pforzheim Germany
1915年頃 プフォルツハイム ドイツ
刻印:935、工房印 8.5 x 7.6 x 1.1cm
銀(一部鍍金) エナメル マーカサイト
 
装身具の生産で古くから歴史を誇るドイツのプフォルツハイムは、19世紀末には九百もの工房が存在し、1910年頃には全市民の半数が装身具の仕事に従事していたという。中でもマイレ&マイヤー工房は、銀に精緻なエナメル技法を使ったアールヌーヴォー様式の装身具や高級小物で知られる。
 
このマイレ&マイヤー作品は、アールデコ様式へと流行が変化しつつあった時代の女性用シガレットケースである。この時代、シガレットケースは、断髪で煙草を嗜む、モダンで自由な女性のための洒落た小物であった。エナメル部分に数箇所アタリが見受けられる。
*SOLD*