Works of Art〜美術工芸品図録38
Enamel Transfer Portrait of Napoleon Glass Tumbler
エナメル転写ナポレオンの肖像グラスタンブラー
c1820 France or Bohemia
1820年頃 フランスまたはボヘミア
高さ:8.2cm 直径:7.2cm オリジナル革ケース
18世紀後期ヨーロッパのドリンク用グラスは回転盤(グラインダー)を使ってカットとグラヴュールで装飾したものが主流であった。蒸気の開発にともない回転盤に電力を供給しガラスの生産効率が上がった19世紀初頭には、産業革命で富を得たブルジョワ市民の食卓向けにダース単位で販売されるグラスが量産された。一方で量産品とは別に祝いや記念に精巧な細工を凝らしたタンブラーなどの特注品がフランスやボヘミアなどで作られた。
透明なグラスの底に黒エナメルでナポレオンの肖像を転写した重厚な鉛ガラス(クリスタルガラス)のタンブラーである。製作工房は不明であるが、絵が摩耗しないようエナメルの上にガラス質の保護膜を重ねる高度な技法はウィーンのAnton Kothgasserやフランスのバカラといった一流工房に限られる大変珍しい細工である。復古王政期のフランスにおいて酒を飲み干すと底にナポレオンが現れるタンブラーは、失脚後のナポレオン・ボナパルトを公然と崇拝できないボナパルティスト向けのシークレットグラスであったと考えられる(のちナポレオン3世時代からは英雄ナポレオンの勇姿を堂々と描く食器や工芸品が作られた)。歴史的、技法的に稀少なガラス作品と言える。皮革ケース付き。