CabinetⅢ 【第Ⅲ室】〜Works of Art 美術工芸品
 

Works of Art〜美術工芸品図録16

Silver Lynx Stirrup Cup
銀製山猫馬上盃(スティラップカップ)


Early 20thC Probably Eastern Europe
20世紀初頭 おそらく東ヨーロッパ
刻印:KOKOSHNIK925(偽ロシアマーク) 高さ:9.0cm

ロシアにおける銀の純度規格は"zolotnik"法で「84」「88」「91」zol がそれぞれ純度875、916.6、947.9を表し、スターリング「925」を示す事は無い

 
スティラップは英語で鐙(あぶみ)のことで、馬に乗り狩猟などに赴く者に酒を供するための盃をスティラップ カップと呼び、通常野生動物や猟犬の頭部をかたどっている。
 
酒は馬上で飲み干すため、卓上に置く想定の無いカップにフットは無い。カップは、馬に乗って去りゆく客人へ「別れの盃」として酒をふるまった後に餞別品とされることもあり、工芸的に上等なものが多く、銀無垢の彫金が優れたロシア作品は特に人気が高かった。
 
目、口内、カップ部に鍍金が施された威嚇するような銀の山猫は、ロシア作品に匹敵する出来映えと重さである。最近の巧妙で悪質な帝政ロシアの贋物とは異なり、稚拙な偽ロシア印が打刻されていることから、ロシア政府によるユダヤ人排斥(ポグロム)から国外に逃れた銀細工師が、東ヨーロッパあたりで制作した作品と考えられる(ユダヤ人の職人は亡命先でギルドに加入する事が出来ず、正規の刻印を与えられなかったと云われる)。