CabinetⅢ 【第Ⅲ室】〜Works of Art 美術工芸品
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Works of Art〜美術工芸品図録31

Tusk Lady's Hand Back-Scracther with Mahogany Stem
Large Tusk Lady's Hand Back-Scracther Set with Gems
獣牙「貴婦人の手首」マホガニー柄付きバックスクラッチャー
貴石装飾獣牙「貴婦人の手首」大型バックスクラッチャー  


Middle 19thC France
19世紀中期 フランス
(上)長さ:37.5cm (下)長さ:49.3cm
 
バックスクラッチャーは名の通り背中などの手の届かないところを掻くための道具、日本の孫の手である。湯水で体を洗うと伝染病になりやすいと考えた17~18世紀のヨーロッパにおける上流階級の者たちは入浴を控え、着脱が面倒な誂えの下着の交換は稀で、高さを競って異様に盛り上げた女性の髪型は洗髪も容易ではなかった。バックスクラッチャーは背中や頭皮の痒みを和らげる必需品として貴族の化粧台を飾り、植民地からも多数輸入された。
 
ともに赤いガーネットの指輪をした白い手首のバックスクラッチャー2点は、衛生観念が根付き始めた19世紀の作品である。「貴婦人の手首」は当時のヨーロッパ芸術におけるセンチメンタリズムを背景に、特にジュエリーの分野で人気の意匠であったことから、この2点は道具というより装飾性の高い工芸品として作られた。
 
マホガニーの柄が付いた優美で柔らかな女の右手首のバックスクラッチャーは、伸びた細い指先が実用には不向きである。ふっくらとした手の甲やしなやかに伸びた指は今にも動き出しそうで、密かに所有し愛でたい彫刻作品である。
 
宝石で装飾を施した左手首のバックスクラッチャーは、典型的な曲げ指が実用性を示す。幼児の手ほどもある大変珍しいサイズで、見た目同様、持ったときの重さも迫力である。ローズカットダイヤモンドとルビーを嵌めた十字架を中心とした金銀装飾と暗赤色のガーネット・リングが白い手首に映える贅沢な逸品で、裕福なキリスト教信者または教会関係者が所有したものと考えられる。
 
*2点は別売りです